( “盲目物語” その二 )

昭和30年の初演から17代目中村勘三郎丈と6代目中村歌右衛門丈とで素晴らしい歌舞伎に仕上がった“盲目物語”は、平成に入り18代目中村勘三郎丈(当時勘九郎)と当代坂東玉三郎丈に受継がれます。

歌舞伎“盲目物語”の粗筋は以下のようなものです。

“その一”に記したように、小谷城が落城して夫浅井長政が殺されたのち(当代玉三郎丈扮する)お市の方は三人の娘と共に兄織田信長の庇護のもと清州城内で鬱々とした日々を送ります。そんなお市の方に信長の重臣(中村橋之助→当代芝翫扮する)柴田勝家と(18代目勘三郎丈扮する)羽柴秀吉が言い寄りますが、特に主人長政の仇とみなす羽柴秀吉には自身への目通りすら許しません。

お市の方には近江小谷城時代から按摩と芸事が達者な(羽柴秀吉役と二役で勤める18代目中村勘三郎丈扮する)盲目の弥市がその気鬱と無聊を懸命に慰めています。またお市の方の三人の幼い娘たちもこの弥市によくなついており、お市の方にとっては弥市と過ごす時間だけがホッとする瞬間でした。

秀吉を嫌いぬいているお市は結局柴田勝家の妻になることを承諾し、それを聞いた弥市は「どのようになってもおそばに置いてほしい。」とお市の方に懇願し許されます。

その後お市のもとに忍んでやってきた秀吉が「絶対にお市の方様をあきらめない。」と強く訴えますが、お市は勝家のもとに嫁ぐことが決まったと言い放ち秀吉を愕然とさせます。

そして織田家の跡目争いを巡って秀吉と争った勝家が敗れ、自身の居城越前北ノ庄城は秀吉の軍勢に取り囲まれます。死を目前にして城内大広間でささやかな宴を催し三人の娘たちを逃がした後に勝家とお市の方は自害して果てます。阿鼻叫喚と混乱の中、弥市が泣き叫ぶお茶々の手を引いて城外に逃げますが、お茶々の手が慕っていたお市の方の手そのものに感じた弥市は突然幼いお茶々に我を忘れてすがりつき「是非これからもおそばにおいてほしい。」と懇願します。しかしそんな弥市の普段とは全く違う異常な言動に恐怖を感じたお茶々は弥市を置き去りにして逃げ去るのです。見えない目で走り去るお茶々の後を必死に追う弥市でした。

大詰めは、小谷城落城から15年の時が流れ琵琶湖のほとりで今では天下人に昇りつめた秀吉が側室淀の方となったお茶々を引き連れ浅井長政の菩提を弔っています。秀吉はついにわがものにできなかったお市の方の娘を側室にすることで自分の恋を成就させたのです。

淀の方の願いで秀吉がここらあたりの乞食に施しを与えて二人は駕籠に乗って去り、乞食たちも散り散りになった後に落ちぶれ果てた弥市が一人残されます。今しがた施しを与えた乞食の中に弥市がいたことに淀の方は気が付かないままその場を去っていったのです。

そしてみすぼらしい物乞い姿の弥市が昔を懐かしみ三味線を弾きながらお市の方の無聊を慰めた当時の俗謡を唄うとやがて琵琶湖の上にお市の方の美しい亡霊が現れ弥市の三味線と唄に合わせて琴を弾くという18代目勘三郎丈と当代玉三郎丈の幻想的なシーンで幕切れとなります。