平成21年12月の歌舞伎座夜の部は中村勘三郎主演の鼠小僧でした。野田秀樹演出でしたから「壁に耳あり、柱にシロアリ」とか「油っぽい顔して水臭い」などのギャグもふんだんに取り入れられ、従来の歌舞伎からは大分外れた大衆娯楽劇という感じでしたが充分楽しめました。

強欲な棺桶屋の勘三郎扮する三太が「縁起がよくっても人は死ぬんだ。」といいながら観客席のほうを適当に指差しながら「ほーらひと棺桶、ふた棺桶」と言ったあと何と最前列中央に座っていた私の目をしっかりと見て私を指差して「み棺桶!」と言ってくれた!!ではありませんか。飛び上がるほど嬉しかったですね。役者は舞台の上からよーく観客が見えるものだそうです。居眠りばかりしているとかつまらなそうにしているとか、一所懸命見ているとか。私はほとんど常に最前列で観劇しますので勘三郎は観客である私のことを覚えていてくれたのかも知れません。

実は10年ほど前でしたか、中村屋の手ぬぐいを観客へ放るサービスがありましたが、観客席の遠くへばかり放っていた勘三郎(当時勘九郎)がやはり一列目に座っていた私に最後の一本の手ぬぐいをハイよっとばかりに手渡してくれたことがあり感激したことを覚えています。いつも最前列で一所懸命見ている(と本人は思っている)私のことを覚えていてくれたのではと勝手に考えています。

私は当代勘三郎が“勘九郎チャン”といわれていた子供のころからテレビによく出ていたので知っていました。万人に愛されるキャラクターは昔と変わりませんが、50代半ばを迎え以前より大分太った体形になりました。男の場合、太っても“貫禄”という表現に置き換えられることが多く得ですね。女優は、特に昔“かわい子ちゃん”や“肉体派”で売った人はそうはいきません。

平成21年7月新宿シアターサンモールという劇場でいしだ壱成主演の「新宿ミッドナイトベイビー」という芝居を見ましたが、競演の浅野温子は40代後半ながら昔と同じスリムな身体でした。ところがもう一人こちらは昔脱ぐのが専門だったK.Aという女優さん(51歳)は不動産屋の女社長を演じていましたが、すっかり太ってしまい、もうこの人の裸は見たかないなと思いました。(なんという失礼!!)

12月の歌舞伎座はもう一本、七代目中村芝翫(なかむらしかん)丈の“雪傾城(ゆきけいせい)”という舞踊劇でした。6人のお孫さんと7人だけでの舞台でしたから昭和3年生まれの芝翫丈はどんなにか嬉しかったことでしょう。孫は子より出でてその愛は子に勝るとか、次女好江さんは当代勘三郎夫人で二人の息子勘太郎君と七之助君はもう人気者。長男福助の息子児太郎君、次男橋之助の三人の息子(母親は三田寛子です。)国生君、宗生君、宜生君に囲まれて傾城姿で踊る芝翫丈の至福たるや思うべしですね。

歌舞伎の世界ばかりは、その家の芸を継承する為に男の子が生まれないとどうしようもありません。男の子ばっかり生まれる男腹、逆に女の子ばっかりの女腹という表現があるそうですが、芝翫丈の娘や息子のお嫁さんはみんな男腹ということだったのかもしれません。男の子を生む為におそらくは科学的なものや俗説、神仏のお力にすがるなど涙ぐましい努力を密かに重ねた結果かもしれません。

当代中村吉衛門丈のところは確か四人とも女の子でしたので、四人目も女の子だったときの一家一族の落胆振りが目に浮かぶようです。(そして奥様のご苦悩如何ばかり!)

今をときめく市川宗家の海老蔵に嫁ぐことになった小林麻央チャン、梨園の厳しいしきたりのほかにも何としても男の子を生まねばならないという大変なプレッシャーもあるということをユメユメお忘れなきように。(オーキナお世話か。)

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