1/200 戦艦長門(小西製作所)

休むのも仕事の内

新型コロナウィルス蔓延で世の中は大変な状況になっていますが、安部総理大臣が連続147日休みなしに公務に携わり続けた後、先日慶応大学病院でほぼ丸一日検査を受けたことで色々憶測が広がっています。自民党の総理側近はもとより総理に好意的なジャーナリストや評論家の方々も、野党が揚げ足取りのような主張をするたびに、何か月も休みを取っていないのだから(そのようなことを言わないように)と総理を擁護する発言をしています。

また神奈川県の黒岩知事が新型コロナに係る“神奈川警戒アラート”発令中にもかかわらず劇団四季のミュージカルを見たとかプロ野球を観戦したとか、さらには夏休みを取ることも県議会の野党議員中心に「不謹慎のそしりを免れない!」と疑問の声が上がっているようです。

確かにトップたるもの倒れるまで不眠不休で仕事をし続けるのは日本人好みでしょうが、それが本当にいい事かと冷静になって考えてみてください。

昭和1612月に始まったアメリカとの戦争において昭和196月のマリアナ沖海戦に大敗した日本海軍は再起不能となりこの時点で日本の敗戦が決定的となりますが、それでもアメリカ軍に一度痛撃を与えてから講和に持ち込もうと考えて昭和1910月フィリピンに来寇(らいこう)したアメリカ海軍に対して日本海軍は綿密かつ壮大な計画(捷一号作戦)を立案し、残った軍艦と飛行機の全力を投入します。このフィリピン沖海戦に於いて史上初めて飛行機に爆弾を積んで十死零生の体当たり攻撃を行う神風(しんぷう)特別攻撃隊が出撃し大きな戦果をあげます。

日本軍の決死の特攻機がアメリカ艦隊を襲っている最中、そのアメリカ艦隊司令官が「夜も更けたから自分の部屋に入って休む。」と艦長に告げた時に艦長は「今まさに日本の自殺機の攻撃の真っ最中ですよ、そんなときにお休みになるんですか?」と怪訝そうに聞いたと言います。それに対してその司令官は「日本軍機を撃退するのは君たちの仕事であって私のそれではない。」と言って自室に入ったそうです。司令官の職分は大所高所から艦隊をどう動かせば最良の結果になるのかという戦略を考え実行することですから、実際の戦闘となると司令官はほとんど出る幕がないのです。要するに居てもいなくてもいい場面の時は、たとえそれが実際の戦闘中であろうと休みたいときに休むというのはある意味合理的な考えです。

これと正反対の話があります。捷一号作戦は強大なアメリカ海軍機動部隊を日本の囮(おとり)艦隊が遠くに引き寄せ、数日前にアメリカ陸軍が上陸したレイテ湾がガラ空きになったところに戦艦大和・武蔵を中心とする日本主力艦隊が突入して砲撃で上陸部隊と物資を殲滅するというものでした。

この作戦は途中まで大きな損害を出しながらも日本側の思惑通りに進みます。多くの飛行機を積んだアメリカ機動部隊が日本の囮艦隊を追って北方に行ってしまいレイテ湾付近には恐ろしい敵機動部隊が一時的にいなくなったのです。

まさに絵に描いたような神機到来と言ってもいいような願ってもない展開です。あとは栗田建男中将率いる主力艦隊がレイテ湾に突入して自慢の大砲を撃ちまくるだけです。ところがこのとき栗田中将があと2時間でレイテ湾に到達しようとしたとき全艦隊に反転を命じるのです。色々と理由はあったようですが、大目標達成寸前にそれを放棄して戦場から逃げた格好になってしまったのです。戦後まで生延びた栗田中将はこの“謎の反転”についてほとんど語ることはなかったそうですが、「あの時3日寝ていなくて非常に疲れていた。」と親しい記者に戦後話したと言います。フィリピン沖海戦当時56歳だった栗田中将はそれに続けて「その判断も今から思えば健全ではなかった。その時はベストと信じたが考えて見ると非常に疲れている頭で判断したのだから。三日三晩眠らないで神経を使った後だったから身体の方も頭脳の方も駄目になっていたのだろう。」と漏らしたと言います。

なんの言い訳にもなりませんね。軍人や政治家そして会社経営者は結果が全てなのですから。「心身を擦り減らし一生懸命やった。」と本人が思っても、結果が伴わなければ免罪符にはなりえません。

余人をもって代えがたい人ほど効果的に休みを取って心身ともにベストな状態で判断を下し指示を出さねばならないのです。“不眠不休の努力”とは聞こえはいいのですが、経営の大方針を示すこととそのための判断と指示がその職分の大きなウェイトを占めるトップは基本的にそうしてはいけません。日頃から健康管理には十分留意し常に適正な判断ができるコンディションにしておく必要があります。そのためには休むのも、また本業を忘れてミュージカルやプロ野球を見たりするのもトップの仕事と割り切るべきです。人間様は頭も身体もそんなに頑丈にできているわけではないのです。

社長業は、

1 人がいない時は、人を連れてくる 

2 仕事がない時は、仕事を持ってくる

3 お金がない時は、金を工面してくる

のが、具体的なその大きい職分です。誰にでもできることではありません。社長にしかできないのです。この三つの職分さえ果たし結果を出せたならあとは遊んでいてもいいのです!と言ったら言い過ぎでしょうか。