もったいないの呪縛 その1
もったいない”という言葉は世界の中で日本にしかない表現だそうですが、日本人は長い間常にモノ不足(人余り)の状態が続いた為にモノを異常とも思えるほど大切に扱いました。戦争中はさらにそれがひどかったのは言うまでもありません。日本は貧乏なのでアメリカのようにふんだんに兵器は作れないから大事に扱うというのはわからないではありません。しかし戦争という非常時に戦争に勝つことよりもモノを大事に扱うことそれ自体が目的化してしまった節があるのではないかと私は考えています。
昭和16年12月竣工の戦艦大和、昭和17年8月竣工の戦艦武蔵は46センチ砲9門を擁し確かにその当時としては世界最大最強の戦艦でした。しかし大切な戦艦が傷ついては困るからと海に空に激闘続く南方戦線にこの新鋭戦艦を出撃させなかったのです。一流のコックや軍楽隊を乗せ冷房の効いた快適な2隻の世界に誇る大戦艦はむなしくトラック島の基地に停泊し続け、いつしか大和ホテル、武蔵旅館と影口を叩かれる有様となりました。
その間、大正時代(それも一ケタ!)に竣工した古い戦艦ばかりを最前線に送り、アメリカの新型戦艦と戦わせたのです。いくら改装をして近代化されたとはいえ太平洋戦争開戦から20~ 30年も前に作られた日本の老戦艦が、最新鋭の設備を搭載したアメリカの新戦艦にかなうはずはありません。大和や武蔵が出撃すればもっと有利に戦えたはずの海戦がたくさんあったにもかかわらずです。やがて開戦数か月を経ずして軍艦は絶対に飛行機に勝てないことがはっきりしてしまいます。つまり戦艦は飛行機に比べて時代遅れの兵器になってしまったのです。
そして武蔵は昭和19年10月に、大和は20年4月に、多額の国費を投じながら戦局になんら寄与することなくアメリカ軍の飛行機による攻撃で数多の有為の人材とともにむなしく沈没します。用兵を誤った日本海軍首脳の責任は重大です。
この話を母親にしたところ「この海軍首脳の気持ちはよくわかる。自分も昔なけなしのお金をはたいて洋服を買った際、もったいなくて着ることができず箪笥にしまっておいてはっと気づいたときにはもう流行遅れになっていたことが再々あった。」と言われたことがありました。戦争に勝つために作った兵器ですから日進月歩の技術に追い越されないうちにどんどん使わねばならなかったのですが、”もったいない”という呪縛(と言っても過言ではない)に捉われたとしか言いようがありません。
会社経営も同じことです。よく古い機械や事務機器を大切に使ってそれを自慢の種にしている経営者の方は少なくありません。しかし使い勝手の悪いそれらの機械を性能のいい機械に代えることでより効率的な仕事ができる場合は多いと考えます。会社経営は利益追求ですから一旦購入した機械は徹底的に使い、非効率・陳腐化が顕著になれば躊躇なく買い換えるべきです。モノを無駄にせよと言っているのではなく会社経営上は “もったいない”をバランスよく考える必要があるのだということです。