相続と相続税の対策について
民法によって規制される相続と、相続税法によって規制される相続税は一つ対応を誤ると“争続”になったり大きい税額になったり様々な不都合が生じることになります。民法でも相続税法でも様々な手立てを講じて遺族が苦しまずにスムーズな相続ができるようには一応してくれてはいますが、それらの使い方や対策を誤って不幸な状況に陥ることがよくあります。遺言書や生前贈与などの方法で“争続”を極力回避するのは被相続人の義務ではないかと思いますが、相続税対策とは、相続税を最小にすることだとは私は考えていません。遺族が相続税の納付で苦しまないようにしておくことこそ最も大切な相続対策だと考えています。
たとえば相続財産が1000あってこのままだと300相続税が発生する場合、相続財産を減らすことで相続税を減らす方法をとろうとする人は少なからずおります。具体的には70歳80歳になる被相続人になるであろう人に20年ローンを組ませて貸家を建てるというのはよく使われる(古典的なと言ってもいい)“相続対策”の一つですが、これは必ずしも万能のいい相続対策だとは私は思いません。確かに借入をして貸家を建てれば少し相続税が少なくなる可能性はありますが、問題はその貸家業という不動産業が事業として今後成り立つのかということが重要なポイントです。何より高齢の方に長い返済期間のローンを組ませることが果たして精神的にどうなのでしょうか。不動産業に素人の遺族が今後長い期間にわたりローンを支払いながら貸家業を維持継続していくことがどれだけ大変か充分理解した上での行動なのかどうか。(なんでも簡単な事業というのはありませんが)不動産業も大変に難しい事業で大きくすればするほどサラリーマンや別の本業の傍らにアルバイト感覚で維持継続は困難だと思います。相続という一瞬ではなくもっと長い期間を見据える必要がありそこで赤字が出てしまえば節税どころの問題ではなくなります。
ではどうすればいいのでしょうか。相続財産1000で(使える限りの相続税法上の恩典を使った上で)税額が300だった場合、相続財産1000のうち少なくとも300以上がすぐ使える現預金であれば遺族が相続税の納付に苦しむことがない訳ですから、被相続人が生前に発生する相続税額以上の現預金を残しておくことが相続対策の大切なポイントだと私は考えています。
後継者育成や他の税目の節税対策なども同じですが、相続税対策に関しても多くに共通する公式のようなものはありません。私はまず(民法上の)相続とは・(相続税法上の)相続税とはというところから話を始めることにしています。各個人や各会社によって事情は様々ですから長い時間をかけて十分な議論をしながら対策を進めることが結局はいい相続対策につながるということだと私は考えています。