「砂の器」 その四(番外編)
「砂の器」その四(番外編)はタバコの話です。
昭和40年代から50年代にかけてテレビドラマでも映画でもタバコを吸うシーンが数多く見られました。今ほど嫌煙権が声高に叫ばれることのなかった時代ですから多くの人が堂々と職場でも茶の間でもタバコをくゆらせていたのです。「砂の器」も例外ではありません。原作でもまた映画でも喫煙シーンが、今西刑事の出張先の列車内で、バーのカウンターで、警察署で、血液型鑑定の際に、和賀英良の愛人のアパートで、和賀がピアノ前で作曲中に、大阪の法務局で、和賀がフィアンセの父親のタバコに火をつけるシーンなどなど頻繁に出てきますが、それがそれぞれ見事に様になっていてお芝居の重要な小道具の一つになっていたように思います。
しかし平成になってからでしょうか、愛煙家にとっては肩身の狭い時代に入ります。副流煙による間接喫煙の健康被害がテレビの健康番組などでたびたび取り上げられセンセーショナルに放送されて、ますますタバコに対する差別・偏見といってもいいほどの悪いイメージが広がります。それにつれてテレビドラマでも映画でもそして小説ですらも喫煙シーンは急速に姿を消していったような気がします。昨年何のお芝居だったかは忘れましたが、開幕前に係員の方が「舞台でタバコを吸う場面がありますが、この煙は健康に全く害のないものですのでご安心ください。」をアナウンスしていて、ここまでタバコは嫌われているのかと驚いたことがありました。
私自身タバコは吸わないのですが、昭和2年生まれ91歳の私の父親はショートピースを70年以上にわたって吸い続けております。このタバコはニコチンもタールもかなりきついんだそうですが、父親は今に至るも健康そのもので鍛えた胸板は私より厚く腕の太さも私の倍はありそうです。10年余り前の満80歳の時に75歳以上のスーパーシニア野球日米対抗戦の日本選手代表25人のうちの一人に選ばれ、4番サードで二試合をハワイでプレーしました。(二戦二敗でしたが。)その父親が豪語します。「タバコは体にいい。スーッと大きく吸って、ハーッと吐く。これが免疫力を高めるんだ。」と。いまだに腕立て伏せをいとも簡単にやれる父親の言葉ですからちょっと説得力を感じますね。
また当事務所のお客さんのお医者さんが「喫煙者は肺ガン以外のガンになりにくい。」とおっしゃっていましたが真偽のほどはわかりません。さらに当事務所の別のお客さんが禁煙したところ口寂しくなって飴玉やせんべいをかじっていたらたちまち太ってしまいメタボの診断を受けた時に一言「ウン、禁煙は体に悪い!」だそうです。
ところでタバコに含まれる税金がどれぐらいあるかご存知でしょうか。国と地方のたばこ税・たばこ特別税・消費税を合わせるとなんと63.1%!にのぼります。一箱440円のたばこだとそのうち277円が税金ということで、本来の値段は163円にしかならないのです。これをもし一年間本来の値段だけで購入して吸い続け、所得税のように翌年の3月15日に一年分のたばこ税を集計して納めるとなるとあまりの重税感に暴動が起きるかもしれません。そうならないのはタバコにかかる諸税がタバコの値段の中に含まれる間接税だからです。酒税やガソリン税もそうですが、値段の中に上手に税金が隠されているのです。これは国家からすると上手な税金の取り方ですね。国民に痛税感をあまり意識させずに結構な税収を上げることができるのですから。(オッと“ぱあと55”にして初めて会計事務所のエッセイらしくなってきましたかね。)
因みにビールの税金負担率は47.1%、ウィスキーは25.7%、ガソリンは49.8%ですからタバコにかかる税金の突出した高さはタバコを吸わない私ですら異常と感じます。タバコによる税収は国と地方合わせると優に2兆円を超えています。しかもたばこ税や酒税・ガソリン税などの税金にも消費税の8%がかかっているというのに気が付かれているでしょうか?一箱440円のタバコの消費税抜きの価格は407円ですが、これには244円余りのたばこ税が含まれています。このたばこ税込みの価格に8%の消費税をかけて一箱440円の値段になっているのです。要するにタックス オン タックス(税金の上に税金をかける)なのです。もちろんきちんとした理屈・理論があっての上ですから、まあ仕方のないことではありますが、国民感情からするとちょっとどうでしょうかね。
さらに愛煙家にとって腹立たしい(と思われる)のは“税金は取りやすいところから取る。”という発想が働くのだと思いますが、タバコはこの格好の増税のターゲットにされているように感じます。たばこ税は明治9年に印紙の貼付という形で初めて課税されます。領収書に印紙を貼るようにタバコに印紙を貼っていたんですね、明治の昔には。当時の喫煙率がどれぐらいだったかはわかりませんが当然国民全員ということではないので、この徴税に対する反発も薄かったものと考えられます。そして間もなく始まる日清戦争や日露戦争の戦費調達の手段としてたばこ税の増税が行われます。
平成になって国鉄(日本国有鉄道)が民営化されJRとなった際に旧国鉄の膨大な債務のうち約2/3の25兆円が国鉄清算事業団に引き継がれましたが、その債務返済のために平成10年以降一本につき1円という具合に何度かたばこ税の増税が繰り返されました。要するに喫煙者に旧国鉄の借金の返済の一部を押し付けたようなものです。そうしておいて鉄道車両はみんな禁煙列車ですから訳が分かりません。消費税のように全国民に負担を強いる税金は内閣が倒れたりするほど反発が強いものですが、一部の人達の負担だと反発が弱いということですかね。愛煙家は可哀そうです。
そのうちもっと清算事業団の財政事情が逼迫してくると、血眼になって増税対象を探す財務省官僚によって、例えば太った人に税金をかけるようになるかもしれません。「太っている人はお金があるからたくさん食べて太るんだ。だから税金を負担する能力があるはずだ。」とか何とか理屈をつけて「体重100キロ以上の人には“脂肪届”提出の上、100キロを超える分1キロにつき1000円の税金を“脂肪税”として納めるように。」などと言い出しかねません。これだと課税対象者は限られますから、国民の反発は少ないかもしれません。全国民が本気でダイエットに励んだりなんかしましてね。その時に財務省官僚は、きっと胸を張ってこう言うのでしょう。
「国民の健康第一に考えたこれこそが、この“脂肪税”創設の目的である。」と。
(⌒▽⌒)アハハハ、冗談が過ぎてしまいました。アイ スイマセン!
「砂の器」とは何の関係もない話で終わってしまってキョーシュク!!